離島で神隠し
今年も折り返し地点にさしかかろうかという折に、年末年始の話をします。
とある離島の旅館に住み込みで仲居さんをしました。
年末の仕事(本業)を終えて、フェリーで離島へ向かいます。
島にコンビニはなく、あるのは小さな商店のみ。
廃墟好きにはたまらん廃旅館。
飲み屋もほとんどなく、この私が年末年始、一滴も酒を飲まなかった。
旅館の歴史は古く、私が住んでいた旧館はホラーそのもの。
仲居の仕事は朝早い。
暗いうちから起き、みんなで味噌汁をすする。
朝の仕事を終えると夕方まで休憩。
やることも行くところもないので、海鳥の声を聞きながらひたすらに本を読んだ。
夜は仕事を終えると客のはけた温泉に入り、疲労困憊泥のように眠る。
ここではみんな下の名前で呼ばれて、私が誰なのかどこから来たのか何歳なのか、誰も知らない。
千と千尋である。
ひたすらに労働と読書を繰り返し、誰とも連絡をとらずテレビも見ずに生活した。
大みそかの日、客の余りの年越しそばにありつき、寝ようとした瞬間、何故かめちゃくちゃ落ちた。
体は疲弊して流涎するほど眠いのに、泣いて泣いてまったく寝れず、明け方になってようやくうとうとしていると、なんと寝坊した。
同じ住み込みで来てる大学生の子に鬼ノックされて起きるという、泣きはらして顔むくみまくりの元旦でした。
あけましておめでとうございます。
元旦は神社で初詣もできた。
三が日で、仕事は終了。
旅館のお姉さま方は完全に腰が曲がっていて、所々歯がなくて、とっても口が悪い。
けれど厳しくも暖かく、家族のようで戦友のようでもありました。
毎日まかない作ってくれて、余った刺身やお菓子をくれたり、みんな優しかった。
別れる日はなんか泣きそうになった。
「元気でね、また来てね」
今度あの島に行ったら、旅館はもうないような気がする。
そもそも存在しない旅館だったのでは。
そんな気分になった年末年始でした。